「知識のためだけでない読書を」、ノーベル文学賞のリョサ氏

「新しい技術によって、本の中身が陳腐化するような事態にならないことを願う」。2010年のノーベル文学賞受賞が決まったラテンアメリカ文学の巨匠、ペルーのマリオ・バルガス・リョサ氏(74)は7日、ニューヨークで開いた記者会見でこのように語った。「印刷された本」を好む同氏は、電子書籍やデジタル化がもてはやされる時代の中で、貴重な何かが失われるかもしれないとの危惧(きぐ)抱いているという。

■政治と文学、両立させた創作人生

同時代の政治紛争の中に身を置きながら、創作活動を続けてきたリョサ氏を、選考委員会であるスウェーデン・アカデミーは「道徳的良心」と称えた。リョサ氏は受賞の知らせに「すっかり驚いた」と述べる一方で、受賞をめぐる騒ぎが人生における一時の混乱として過ぎゆくことを望むと語った。「人生最後の日まで書き続ける。ノーベル賞によって、わたしの作品、スタイル、テーマが変わることはないだろう」

処女長編『都会と犬ども』(1962年)から近年の『ヤギの祝宴』まで、自国ペルーはもちろん、独裁者ラファエル・レオニダス・トルヒーヨ支配下のドミニカ共和国など、幅広い題材を扱う。政治活動にも熱心に関わり、当選はならなかったもののペルー大統領選に出馬した経歴を持つ。当初はキューバ革命を擁護していたが後に反対派に回り、文学ジャーナリストとして戦争や紛争について執筆してきた。

■情報革命で文学が陳腐化する?

そんなリョサ氏がいま懸念するのは、愛する文学の世界が情報革命によって急速に変わりつつあることだ。変化は避けられないと認めはしつつ、「満足できるかどうかは分からない。わたしにとって『本』とは『紙の本』のことだ」と話す。「文学は、最も本質的な問題、社会、人間と関わり続けていてほしい。技術には、本の中身を貧しくしてしまう危険があると思う」「しかし、それはわれわれ次第でもある。文学がこれまで通りの姿であり続けるよう望むか否かは、われわれの手に委ねられているのだ」

■読書は「自由に生きるための基礎」

今学期、米プリンストン大学で自身の文学哲学について講義しているリョサ氏は、読書の価値についても力強く語った。「新しい世代にも読書は推奨されるべきだ。とくに若者は、文学は単に知識や特定の概念、アイデアを得るためだけのものではなく、とてつもない喜びを与えてくれる存在だということも知っていなければならない」「優れた文学は、将来自由に生きるための礎となる。権力に簡単に躍らされない市民を作り出すからだ。良い文学ほど社会における批判的精神を目覚めさせるものはない。だからこそ、独裁者は検閲をするのだ」

<2010/10/08/AFP>